大阪高等裁判所 昭和37年(け)17号 決定 1963年1月29日
申立人 伊波孝良
主文
本件異議の申立を棄却する。
理由
本件異議申立の理由は、本件刑事申請事件記録中にある特別抗告申立書と題する書面に記載のとおりであり、要するに、申立人が差戻後の第一審において勾留されていた期間のうち(1) 昭和三六年一二月四日から昭和三七年三月一日までの八八日間と(2) 昭和三六年一月一六日から同年八月三一日までの二二八日間とはいずれも差戻事件とは別の事件について発せられた勾留状に基づいてなされた勾留の期間ではあるが、しかし、その別の事件は差戻事件と併合して審判されたのでありその勾留は差戻事件の審理のためにも利用されたのであるから、右の勾留日数は当然刑事訴訟法四九五条四項により本刑に通算されるべきであるのに、原決定は右日数を通算しないでした検察官の刑執行指揮を是認したのであり、その違法であることは明らかであるから、原決定を取消し更に裁判を求めるため本件異議申立に及んだ次第である、というのである。
しかしながら、刑事訴訟法四九五条四項により上訴中の未決勾留日数に準じて本刑に通算されるべき破棄後の未決勾留とは破棄差戻された事件について発せられている勾留状に基づく勾留をいうのであつて、差戻後の起訴にかかる事件について発せられた勾留状による勾留を含まないと解すべきである。差戻後の起訴にかかる事件が差戻事件と併合して審判され、しかも差戻事件については勾留状が発せられておらず又は保釈・勾留執行停止がなされもしくは勾留期間が満了したため、差戻後の起訴にかかる事件の勾留が差戻事件の審理のためにも利用されたとしても、その勾留日数は刑法二一条による裁定通算の対象となるだけであつて、刑事訴訟法四九五条四項による法定通算の対象となるのではない。
そして、所論(1) の八八日と(2) の二二八日とが差戻後の起訴にかかる事件について発せられた勾留状に基づく勾留の日数であることは原決定の詳説するとおりであるから、刑の執行指揮に際し右日数を法定通算日数のうちに加算しなかつた検察官の処分を是認した原決定は相当であつて、所論のような違法はない。
よつて、刑事訴訟法四二八条二、三項、四二六条一項により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松村寿伝夫 裁判官 河村澄夫 裁判官 斎藤平伍)